水素サプライチェーンを巡る動きー三菱商事、三井物産

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Frauke FeindによるPixabayからの画像

要点

 本日は、水素サプライチェーンを巡る、大手商社二社の動きにつき述べていきます。

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 水素は、脱炭素社会において石油・石炭に変わる新しいエネルギーとなり得る可能性があるだけに、大いに期待したいと考えております。今回の取り組みは大手商社らしい先駆的なもので、今後の利益を考えると株価にもプラスにしか影響しないのではないかと思えてなりません(あくまで感想です、株式投資は自己責任でお願いします)。

脱炭素化の中での水素サプライチェーンー位置づけ

 かねてより国際的な問題となっている地球温暖化の原因は温室効果ガスであり、その効果的な対策としては温暖化ガスを最小限とし、回収して二酸化炭素排出の実質ゼロとすることです。そこで、脱炭素化を成し遂げるべく関係各位は種々の方策を検討されているところです。要するに、脱炭素化とは、二酸化炭素排出の実質ゼロを指すものです。では、現在、各国はどの程度の二酸化炭素を排出しているのでしょうか。表よりも円グラフが分かりやすいので、JCCCA様の下記の図表をご覧ください。

出典)EDMC/エネルギー・経済統計要覧2021年版(上記図表は、全国地球温暖化防止活動推進センター[JCCCA: Japan Center for Climate Change Actions]が、自由に使ってよいとHP上で許諾を与えておりますので本ブログに掲載しました)。

 中国の排出量が桁違いに多いことが見てとれます。先進諸国に限定してみると、アメリカの排出量が突出していますが、日本は先進国の中では排出量が多い方であり、かつ、排出量が5番目に多い国です。また、最近では2020年10月になされた菅総理の国会での所信表明演説で2050年までに脱炭素社会実現を目指すことを宣言したこと、更に、1997年の京都議定書を受けた2015年のパリ協定にて、地球温暖化対策・脱炭素化の必要性・重要性が国際的にも認知されているのが現状です。

 かくして、このような国際的・国内的状況をふまえた上で脱炭素化のため大手商社は具体的に取り組んでいるものとみられます。その流れで本日のニュースである脱炭素化のための水素サプライチェーンを位置付けることができます。

水素サプライチェーン

 現在、電力や自動車業をはじめとするさまざまな産業において、二酸化炭素排出実質ゼロの観点からみてクリーンなエネルギーとなり得る水素は、脱炭素実現のための切り札と見られています。

 しかしながら、水素は運送面で課題があるとされています。即ち、供給地から需要地に向けてグローバル、かつ、安定的に輸送すること、特に、大規模な長距離輸送および長期間貯蔵は、技術的にクリアーすべき課題です。

 技術的にクリアーする手法として、トルエンと水素から生成されるメチルシクロヘキサン(MCH)を利用することが考えられます。というのも、メチルシクロヘキサン(MCH)は、 常温・常圧下では液体であり、輸送・貯蔵をなすにあたり既存の製油所の設備やケミカルタンカーを含む石油・石油化学製品用の既存のインフラの活用可能であるからです。

三菱商事・三井物産の動き

 上記のように脱炭素において水素が有力であり、かつ、具体的にはメチルシクロヘキサン(MCH)が有望であるとして、三菱商事・三井商事をはじめとする国内各企業は次のような取り組みをしています。

 三菱商事・三井物産・千代田化工建設・日本郵船株式会社は、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合を作りました。2021年8月10日、同組合がブルネイで製造する水素をメチルシクロヘキサン(MCH)としてENEOSに向けて供給する契約を締結し、公表した次第です。

 同組合は、既にブルネイで製造した メチルシクロヘキサン(MCH) を 日本に初めて国際間輸送し、水素を安定的に取り出す実証を 2020 年に実施・完了したという実績があります。そこで、この実績を基礎とした上で同組合がブルネイで製造する水素を メチルシクロヘキサン(MCH)としてケミカルタンカーなどで輸送し、供給する役割を担います。

 そして、現段階で国内の工業用水素利用の主力である石油精製過程においては、残念ながら二酸化炭素の排出を伴う水素(いわゆるグレー水素)が利用されています。今後は、グレー水素をメチルシクロヘキサン(MCH)に代替することで二酸化炭素排出量の削減が期待されています。れます。

 なお、ここにいう組合とは、農協や漁協とは異なり、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを目的とする民法上の組合のことを指している可能性が高いと思われます。現に上記四社は同組合の組合員です( 次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合 HP参照)。大規模な公共工事・建築工事等でみられる共同企業体の形式や映画の制作委員会と同じようなものです。新会社を設立するのではなく、組合の形式をとっていることは興味深いですね。

 新会社設立となると権利義務の主体は新会社になりますが、民法上の組合の場合だと、組合に権利義務は帰属せず、組合員となる各会社が権利義務の主体となります。また、会社を株式会社とすると持株比率の問題が必然的に生じますが、民法上の組合だと業務執行の決定は頭数が原則であり、4社による組合ならば3社の賛成により決定することになります(民法670条1項)。

参考条文
民法667条1項「組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。」
民法670条1項「組合の業務は、組合員の過半数をもって決定し、各組合員がこれを執行する。」

今後の展望

 脱炭素社会の実現は待ったなしであり、既存の化石燃料(石油・石炭等)に変わり得るものを探し実用化ベースにのせようとする取り組みは大いに期待すべきものと考えます。今回、取り上げたメチルシクロヘキサン(MCH)の輸送・貯蔵がより確実なものとなれば、幅広く利用されることになる日も遠くはないように感じられます。

 現在、既存の化石燃料に変わる優れたものを早く・確実に把握し、実用化ベースに乗せ利益を上げていこうというのが大手商社の狙いの様な感がします。まさに短期的なビジネスではなく中期から長期のビジネスです。このビジネスで覇権を握ることができれば莫大な利益を上げることも可能でしょう。まだまだ今後は読めませんが、資源で利益を出している(=資源に強い)三井物産や三菱商事の強みを発揮して頂きたいと強く願っています。

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 個人的には、今回のニュースは株価にプラスに働くことはあってもマイナスに作用することはない良いニュースと考えています(あくまで個人的感想なので、株式投資は自己責任でお願いします)。

関連事項

1.三菱商事における最近の動きについて                           三菱商事 株主通信

2.三井物産における最近の動きについて                           三井物産 株主通信

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ご参考まで。

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