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総会集中日を終えて
2021年3月期決算の会社の株主総会は、本日(6月29日火曜日)がいわゆる総会集中日でした(かつて総会屋が暗躍していた時期に会社側が自衛手段として総会日を同一日に集中させ、総会屋の出席を困難なものとした側面も否定できませんが、昨今ではかつてのような総会屋は絶滅したに等しく、総会開催日がかなり分散されていますが、未だに集中日に総会を実施する慣行は残っているようです、各社の総会開催日の詳細は、日本取引所グループのHP等をご覧ください)。本年は、総会への出席を自粛するようにとの要請が昨年に続きなされたこともあり、昨年に引き続き異例の体制での総会であったかと思われます。
そのような中で、総会のオンライン化が進んでいるとメディアで紹介されておりました。やむを得ないことと思います。ただ、一部とは思われますがネットの書き込みを見ると、オンライン化を全面的に推奨する見解や株主が株主総会で質問すること自体を問題視するような、株式投資をしている立場からすると見過ごせない内容が少なからず目に飛び込んできました(書き込んだ人が株主でない可能性や、会社側もしくはその意向を受けた人間である可能性があるだけに一々目くじらを立てても仕方ないことではあります)。もちろん、株式投資とはいかなるものか、株主総会の重要性を十分に認識している書き込みも少なからずありましたが、圧倒的多数ではない点に、ある種の危うさを感じました。
本ブログでは、株式投資家たる株主の権利制限を当然視する動きに強く反対の意思を表明致します。
とはいえ、 既に令和3年6月16日、産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律(令和3年法律第70号)が施行され、産業競争力強化法は改正されるに至りました。その結果、同法66条1項・2項により、一定の要件を満たし、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた上場会社は、「場所の定めのない株主総会」(いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会)を開催することができます。本ブログでは、これらの法改正の内容を可能な限り簡単にご紹介し、今後の課題について述べていきます。
会社法ではどこまで可能なのか?
株式会社についての法的根拠はかつて戦前・戦後ともに商法に規定されていましたが、商法「第2編 会社」の部分を独立した法律にする形態で、平成17年に会社法が成立しました。それ以降、株式会社についての法的根拠は会社法(平成17年法律第86号)となります。
会社法298条1項では「取締役・・・は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。」と規定されており、1号において「株主総会の日時及び場所」を定めることが求められています。ここにいう「場所」とは、株主が質問し説明を聴く機会を確保するため、物理的に入場することができる場所でなければならないと解されています(経済産業省経済産業政策局産業組織課「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会 制度説明資料」1頁)。
そして、株主総会の開催手法として、①リアル株主総会(従来通り)、②ハイブリッド(参加or出席)型・バーチャル株主総会(株主は会場に赴いてもいいし、ネットで参加or出席してもよいというもの、会場準備は従来通り必要)、③バーチャルオンリー型株主総会(物理的な会場を設けない開催手法で、ネットのみでの参加が可能)が考えられるところ、現行会社法においては、物理的な入場を観念し得る①と②までは法的に開催可能であると考えられています。現に、株主の皆様も②を経験した方も少なからずおられることでしょう。
問題は③ですが、今回の法改正により開催することが可能になりました。
バーチャルオンリー型株主総会(=全面的オンライン総会)
立法担当者である経済産業省は、①遠隔地にいる株主も参加できる、②会場確保のコストダウン、③感染症等のリスク軽減、即ち、株主総会の活性化・効率化・円滑化につながることから、株主の利益の確保に配慮しつつ、産業競争力を強化する観点から、バーチャルオンリー株主総会の開催が可能であると考えています(経済産業省経済産業政策局産業組織課「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会 制度説明資料」2頁)。ここに述べていることが、いわゆる立法趣旨・制度趣旨であり、個々の条文解釈をなす際の手がかりとなるものでもあります。
上記において、株主の利益の確保に配慮することが盛り込まれていることから、上場会社が経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合に限り、株主総会を「場所の定めのない株主総会(=バーチャルオンリー株主総会)」とすることができる旨を定款に定めることができ、この定款の定めのある上場会社のみがバーチャルオンリー株主総会の開催可能というのが原則となります。
例外的に、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえ、改正法施行(2021年6月16日施行)後、2年間に限り、上記の大臣の確認を受けた上場会社については、定款の定めがあるものとみなすことが
できる、としている。つまり、2年間に限り、定款変更の株主総会決議を経ることなく、バーチャルオンリー株主総会の開催が可能です(経済産業省経済産業政策局産業組織課「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会 制度説明資料」2頁)。この例外は、次年度以降に顕在化することになるでしょう。
(根拠条文) ◎産業競争力強化法66条1項 「金融商品取引法第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式
会社(以下この条において「上場会社」という。)は、株主総会・・・を場所の定めのない株主総会・・・とすることが株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合として経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、経済産業省令・法務省令で定めるところにより、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合には、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定款で定めることができる。」
◎産業競争力強化法の一部改正に伴う経過措置3条
「・・・株式会社又は・・・2年を経過する日までの間において上場会社となった株式会社が、第1号施行日から2年を経過する日・・・までの間に第一条の規定・・・による改正後の産業競争力強化法・・・第66条第1項に規定する経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合には、当該株式会社は、当該期間においては、その定款の定め・・・にかかわらず、その定款に同項の規定による定めがあるものとみなすことができる。」 (経済産業省経済産業政策局産業組織課「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会 制度説明資料」5~6頁)
株主の法的地位と今後の課題
上記に紹介したように、株主総会のオンライン化が法的にも認められ、おそらくは、例外規定を根拠に来年6月の株主総会から積極的に導入してくる会社も出現してくることと思われます。
そもそも、株式会社においては所有と経営の分離が大原則であり、株主は会社に出資し会社を所有するものの経営には素人であるので経営はプロである経営陣に任せ、経営陣たる代表取締役・取締役は株主から経営を任されているに過ぎません。いかに有能な経営者であっても、会社は経営者のものではなく株主のものなのです。即ち、株主は会社所有者なのです(この理解を社員権論と称します。かつて鈴木竹雄博士が提唱した理論です)。それ故、株主総会で、株主が経営陣たる取締役を選任・解任するのです。更に、会社の経営が行き詰まり、新しい出資先から出資を受ける際に、経営陣が取締役を任期途中で辞任したり、報酬をカットするなどの経営責任をとるのと同様に、株主も最悪の場合100%減資という形で経営責任を取らされるのです。100%減資とは、株主の権利が剥奪されるものです。このような重い責任を株主が負っていることからすれば、経営不振であるとか、不祥事の発覚した際に株主から経営陣に対して厳しい突き上げがされるのはある意味で当然のことでしょう。株主総会が経営陣にとってのプレッシャーになっていることは、健全な経営をなす上で必須なものといえましょう。
そして、(株主総会の局面における)対面の具体性・迫真性は決して取り換えのきくものではないと思えます。大学での講義も対面でないことを教育的効果や種々の観点から厳しく批判されましたが、同じことが株主総会でも妥当するのではないでしょうか。株主と経営陣との丁々発止のやり取りは広い会場ではありますが、対面だから意味のあることと思えてなりません。PCの画面越しだとどうしても当事者意識が希薄化し、責任感も同様に希薄化し、その場限りを乗り切ればよいんだという浅はかな考えに支配される経営陣も出てくることを危惧します。また、対面だと双方の表情・行動のすべてを可能な限り確認できます。PCだと一部のみですので、どちらが無理を言っているのかの判断がつきかねます。
私は、2007年前後と記憶しておりますが、たまたま6月に大阪に行く用事があり、関西某大手企業(現在は存在しません)の株主総会に出席しました。そこでは、係争中の労働問題を質問する株主がいました。露骨に嫌そうな顔をして事実上質問への回答を拒否し、これまでのニコニコ顔から閻魔顔に豹変し、株主を糾弾するような発言さえした社長の表情を今でも忘れることはできません。あの時、株主としてその対応はおかしいのではないかと社長に質問すべきだったと自分の無力さに後悔しています(当時、社長の対応を問題視した株主もいませんでした、心中私と同様の株主はいたかもしれませんが)。確かに、件の質問は総会で聞くべき経営に直結する質問ではありませんでした。しかし、株主総会が株式会社の最高意思決定機関であることに鑑みると、もう少し対応の仕方があったのではないかと思えます。このような会社にとって不利益と思われる質問であれば、公的な場である株主総会の場において会社所有者である株主に対しても牙を剥くのかと大変不快に感じました。不適切な質問であっても上手く料理するのが社長たるものの器・力量であると私は考えます。全面オンライン化で上記のような社長の対応が増えることを危惧しています。
今般の改正により、株主総会の全面的オンライン化が法的に認められました。全面的オンライン化により独特の緊迫感が消失し取締役を押しとどめる心理的な負荷がなくなることを恐れます。それ故に、全面的オンライン化をするので少なくとも以下の2つに関して十分な手当てがなされるべきものと考えます。
第一に、会社側が株主との対話を重視する具体的な施策を取り入れるべきと考えます。例えば、本ブログで紹介した三菱商事(詳細は、https://www.syagakuken.com/mitsubishi-corpo/をご覧下さい)ですが、同社は昨年はコロナで中止していますが、抽選を経る必要があるものの数年前から株主総会とは別日程で個人株主懇談会を開催しています。会社の成長に関心のある株主と経営陣との対話の機会を設けていることはさすがだなと思えます。株主総会は全面的にオンライン化し、かつ、株主との対話の機会も設けないような会社は論外であり、厳しい視線を注いでいくべきでしょう。第二に、株主総会に現実に何度も足を運んで感じることは、既に定年を迎えたと思われるシニア層が過半数を占めるという現実です。シニア層の中にはデジタルに疎い方もおられることはご存知の方も多いでしょう。シニア層の方は、大変厳しい質問をされる方もおられます。そのような方が出席しにくくなるような形での全面的オンライン化は株主の権利を事実上侵害することになります。何らかの手当てが必須と考えます。
上記に紹介しているのは、バーチャル株主総会に関する実務的な色彩を帯びた専門書です。商事法務さんは、学術的に価値が高く、かつ、実務的にも使える書籍を多く出版しています。以下は、2021年版の株主総会想定問答集です。法務部員、総務部株主総会担当者必携。
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