院入学後ー社会人編

お詫び

本ブログは令和3年3月30日に開設・初投稿し、概ね2日に1回のペースで更新してきましたが、令和3年4月23日に「大学院と社会人」のテーマで本ブログに投稿後、しばらく更新することができませんでした。ご存知の通り、東京都内に緊急事態宣言が発令され、それに伴う大学教員としての諸々の用事に忙殺されていたこと、ブログにあげる限りは然るべき内容のものをと色々と考えていたら4月から5月になってしまいました。本ブログを訪問して下さったすべての皆様、申し訳ございませんでした。

本日からこれまでと同様に大学教員を目指す方がにとって有益と思われる内容を投稿していくつもりです。また、それ以外の内容、(主に自分が経験したことが主となりますが)大学や研究・教育とは少し色合いの異なった内容を投稿することもあるかもしれません。一人の大学教員の日常がどのようなものかをお示しするのも重要かと思われたからです。

本日は、前回において社会人の方が大学院に入学するまでに乗り越えるべき課題とその対処方法を大まかではありますが示したことをふまえ、社会人の方がめでたく大学院入学を果たされた後、どういう点に留意すべきか示します。以下で取り上げるテーマはそれぞれブログ1回分に相当する内容ですので、可能であれば後日にそれぞれのテーマで投稿したいと考えております。本日の内容は、まず最初に知っておくべき基本的なこと、重要な点に限定しています。

大学院入学後・概要

大学院入学試験に合格した時の喜びから一定の時間が経過し、現実に大学院に入学することになった社会人Aさん。職務で疑問に感じたことを大学教員の指導を受け深く掘り下げて考えよう、もし、自分に資質・能力があるのなら、博士前期課程(マスター)で終えるのではなく博士後期課程(ドクター)に進学し大学教員への道も考えたいと考えているAさん。Aさんにはこんな希望と多忙な日常との折り合いをどうつけようかという不安な気持ちが去来しています。現実に私が社会人院生に現実に接したところ、希望と不安の双方を持ち合わせている方が大半でした。Aさんのような社会人院生には是非頑張ってほしいと思っています。

入学後、留意すべき点はいくつかありますが要点だけ申し上げると、大学院博士前期課程(マスター)において、一番重要なのは、修士論文執筆に尽きます。より良い修士論文を書くためにいろいろな講義・演習を履修することになっています。そして、時間的に拘束されるという点では入学当初の1年目(通称M1)の頃が最も忙しく、ここをうまく乗り切ることができれば、後は修士論文執筆+α程度になります。それ故、2年目以降(通称M2)において、仕事との両立は何とかなるケースが多いように感じます。

なお、上述しましたようにマスター1年生のことをM1、マスター2年生のことをM2と称します。マスターには2年間しか在籍できませんが、留年により在籍期間が延びればM3、M4と称します。ドクターに在籍している方は同様にD1,D2,D3等と称します。

指導教授

学問の世界における親は指導教授です(先輩は兄弟子、後輩は弟弟子(おとうとでし)、即ち、院での先輩後輩関係は学問上の兄弟関係でもあります)。指導教授に関しては後日詳論致しますが、少なくとも院生生活を送る上で指導教授の役割は想像以上に大きいこと、少なくとも修士論文指導の局面において指導教授から指導を受けることになるのは、ほぼ共通のことと理解して差し支えないでしょう。指導教授の決定は、①大学院入学試験の段階から指定できる場合、②入学後M1の段階で決定される場合、③M2になり修士論文が現実的な問題になったときに決定される場合等、大学・研究科により決定のされ方はまさに千差万別です。また、大学によれば教授以外の職位(准教授等)でも修士論文指導が可能であるところもありますが、そのような場合でも指導教授と表現されます。ともかくも、院生にとっては自分に合う指導教授と巡り合い指導を受けることが一番幸運なことです。なお、修士論文については後日詳論する予定です。

そして、社会人院生にとっては仕事との両立等、自分の状況を理解してくれる指導教授であることが理想ですが、なかなかこれは中に入らないと分からないことかもしれません。教員の社会人経験の有無だけでは社会人院生への理解があるのか否か判断しかねるところです。敢えて申し上げると以下(2つ)が参考になるかもしれません。第一は、社会人の学生が履修するであろう時間帯(9時~18時頃)に大学院のすべての講義・演習を開講している教員は社会人の受け入れに否定的である可能性はあります。第二は、継続的に毎年のように論文を書いている教員は、研究に真面目に取り組んでいる方なので、頭から社会人院生を拒否することは珍しいでしょう(研究に真面目に取り組んでいない教員は、往々にして独善的な態度に陥りやすい傾向にありますので)。教員の研究状況は大学のHPでも確認できますし、国立国会図書館の検索で調べればより正確なところが分かると思います。

日々の講義・演習ー報告の要諦

現在、研究科によれば、学生定員とほぼ同じくらいの学生を入学させているところもあるでしょう。他方で、定員には満たない少数の学生しか入学させない研究科もありましょう。後者が伝統的な大学院の運用です。絶対評価に基づき、一定レベルを下回る学生はたとえ定員を下回っていても入学させないという考え方です。

自分が入学する研究科が上記のいずれなのかにより、日々の講義・演習の形式は違いがあります。前者なら、学部よりは少数ではあるもののそれなりの数の学生に対して講義(講義型の講義)をし、演習は少人数で行うことになります。後者なら、講義・演習ともに少人数で講義・演習の実質的な違いはほぼありません。ここでの講義は演習型の講義が展開されているともいえましょう。この場合における講義・演習の差異は、指導教授による論文指導が演習で、それ以外は講義であるという分け方が一般的でしょう。

そして、日々の講義・演習において、講義型の講義であれば学部時代と同じ場合も多いですが、演習型の講義や演習の場合、毎回、受講者に報告を義務付けていることでしょう。この報告をこなすのがM1時代の最大の難所です。人数が少なければ少ないほど回ってくる頻度が上がります。もし、外書講読のような講義を受講していたら、(教員にもよりますが)きつい場合が多いでしょう。

とはいえ、院生の報告に基づいて大学院における日々の講義・演習が成立しているので、報告が回ってくれば可能な限り時間をかけて十分な理解をした上で準備する等真摯に報告に取り組むことが求められています。手を抜いた報告であればそれなりの評価しかされません(手抜き報告をする院生は稀なので教員に印象深く記憶され、その記憶は上書き保存されることはまずありません)。また、熱心にやれば褒めてくれる教員もいることでしょう。特に、指導教授(もしくは指導教授となるであろう教員)の講義・演習の場における報告は、全力を傾注して報告に臨むべきでしょう。そして、報告するからには分かりやすいレジュメを作成し(自分が分かっていないことはレジュメに書き込まないこと等)、当日は万人に分かりやすい説明をなし、予想される質問と回答方法等、まで考えておくことが望まれます。ここら辺のことは、社会人の皆様が日々経験しているプレゼンテーションとほぼ同じものですが、大学院での報告は学問する場での報告ですので、報告するべき内容の十分な理解を基盤としますので、十分な勉強・理解がない上滑りな報告(簡単なことだけ報告し、本質的な内容には触れられていない等)であれば表面的には上手い報告に見えても、あまり評価されないでしょう。そして、報告後院生からの質問があまりなければ教員から矢のような質問が飛んできますが、その際には少なくとも基本的な内容については即答できるレベルにしておくこと、応用的な内容については頭をフル回転させてその場で考え、決して沈黙しないことが重要になります(沈黙しなければ、助け舟を出してくれたり、他の受講者に当てるなど円滑な運営が可能になります、そして、沈黙する人間に対して、教員は無能で講義の円滑を阻害する人間だという印象を強く抱きます)。これらの報告者の報告及び質問対応等を総合的に判断して教員は暗黙の内に報告者を評価しています。この教員による評価が非常に重要で、博士後期課程への進学を相談する際に、「君なら進学していいよ」、「君はやめておいた方がいいよ」、という指導教授の助言という形で将来を左右する可能性があります。指導教授の助言に反して進学することは不可能ではありませんが反対を押し切っての進学ですので、進学後かなり苦労することになります。

報告・質問の注意点

講義・演習の場における院生の報告及び報告後の院生同士の質問・議論等から、報告者のみならず質問者の資質・能力を教員はチェックしています。報告を担当させるのは将来的に学会や研究会で報告をする予行演習という側面もあります。また、学会・研究会では質問内容により研究者としての能力が問われますが、それは大学院に入学した段階から始まっているのです。毎度、教科書に書いてあるような学部1年生がするような質問をする、漢字の誤りしか指摘しない、といった院生がかつていましたが、自ら無能であることを晒け出しているようなものです。また、実力があると過信して散々相手をやり込めてしまうような質問者の態度も嫌われます。自分の力量を示しつつ、報告者の顔も立てるような質問、つまりは、大人な対応が求められます。そして、その大人の対応こそが社会人院生にお手本になってほしいと強く求められていることでもあります。

他の院生とのかかわり方

社会人院生のために開講されている科目は、概ね平日18時~22時頃、土曜日(終日)かと思われます。なかなか時間がない中で院生としてやるべきことをこなすのは、大学院専業の院生でも大変ですが、社会人の方のように仕事と兼業するのは体力的にも時間的にも大変であろうと思います。

このように大変な状況にありますが、日々同じ講義・演習を履修している他の院生にはまずは自分から挨拶し、自分から話しかけるという努力をされることが望まれます。お互い大変ではありますが、適度な緊張感をもちつつも、必要な情報交換や研究上の話をすることができるような人間関係を構築することが大切だと思います。率先して円滑な人間関係を構築することも社会人院生に期待されていることの一つです。

そして、院生にはたまり場のような院生研究室(大部屋)が与えられると思いますが、その中で先輩方とも交流し、自分がM2以上になれば後輩とも交流し、僅かながらでもいいので自分の人間関係の輪を広げる努力ー努力ほどのものではなくちょっとした配慮程度のものですがーをされるとよいでしょう。どの世界でも同じですが同期と切磋琢磨し友情を育むこと、先輩・後輩と円滑な人間関係を形成し勉学面はもとより勉学面以外についてもいろいろなことを学ぶこと、は大変重要です。先輩は教員ではないので、院生としての本音を語ってくれる方もおられるでしょう。

以上、長くなりましたが、社会人の方が大学院入学後に留意すべきことを書いてみました。個別の内容で掘り下げるべき内容があれば、また個別のテーマで投稿します(例、修士論文など)。

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