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大学院を考えている社会人の皆様
かつて大学院に進学するのは、基本的に専門分野の研究者を志望する方でした。その後、終身雇用・年功序列といったこれまで当然視されてきた雇用慣行は大きく変容することになりました。そのため個々人が能力をつけて、どのような状況にあっても対応できるだけの人材である必要がより強く求められるのが昨今の情勢かと存じます。社会人の方には釈迦に説法で失礼しました。かくして、社会人の皆様がもう一度より深く学びたいという切実な需要が少なからず存在することを大学教員である私でさえ痛感します。今回、大学を卒業し企業・官公庁・諸団体に勤務もしくは独立・起業されているといった社会人の方々が仕事を継続しつつ大学院を目指す場合、どのような点に留意すべきなのか。大学教員として社会人の院生への指導経験を有する者として本音ベースで情報発信します。
なぜ大学院を目指すのか(志望動機)
当たり前のことですが、社会人として既にご活躍の方がなぜ大学院を目指すのか。明確である必要があります。理想的なのは、現在従事している職務内容に直接的・間接的に関係のある事柄に興味・関心あるいは疑問をもち、自分で勉強したものの未だよく分からないことがあるので、大学院で専門家の指導を得てより深く学ぶことを決意した、というものです。その際には、なぜ興味・関心をもつに至ったのか、職務内容に関連させて具体的に示すことが必要となります。例えば、大学卒業後に東証一部上場企業に採用され営業部に配属され、そこで、同業他社数社と闇で話し合い、価格を一定以上は下げない申し合わせをしていたところ、一社が裏切り自社を含む数社が金銭的な制裁を受けたものの、裏切った会社は何の制裁も受けないという現実に直面し、現実の法制度・運用の在り方に疑問をもち、法制度・運用がなぜ現状のようになってしまったのかをより深く学びたいと考えた、というようなものです。この事例は、かねてより議論されてきたコンプライアンスの問題にも直結しますし、経営判断の問題(価格カルテルという違法な営業手法を容認していた)ともいえるなど種々の切り口から分析することができるでしょう。このように自分が経験したことをふまえて、理論的・学術的に検討を深めるというのが最もやりやすい手法の一つかと思われます。
このような志望動機は大半の大学院において、大学院入学試験を受験する際の必要書類として志望動機を書く書類を提出することが求められていることでしょう。志望動機は大変重要なものの一つなので、自分でよく考え、可能であれば自分以外の信頼できる方(これは大学教員である必要はありません)に読んでもらい感想を聞くことも大切なことです。
研究計画
志望動機の次に重要となるのは、研究計画です。場合によれば、研究計画書の提出を求めてくる大学もあることでしょう。この書類作成に大変困惑する方もおられます。研究計画書は研究者特有のものという側面があるからです。皆様の中には、税金を財源とする科学研究費助成事業(略称・科研、科研費)というものがあり、様々な専門分野の研究者が科研費の募集に応募して厳格な審査を経て科研費の採択が認められているという現状をご存じの方もおられるでしょう。そして、科研費は税金を財源としますから、研究者名・研究内容・研究成果に関しては、インターネット上で広く情報公開されています(科学研究費助成事業データベース、通称KAKEN)。研究計画書の作成に困惑されている方は、このデータベースを参照されることをお勧めいたします(その他、種々の民間財団でも情報を入手できることがあります)。このデータベースを上手に活用できれば、研究計画書の書き方がおぼろげながら分かりますし、研究者が重視しているのがどういう点なのかも具体的に把握できることでしょう。そして、自分が指導を受けるであろう研究者がどのような研究をしていて、どのような点を重視して研究しているのかもあわせて理解できることでしょう。
社会人院生として
大学院では誰に指導を受けるのかが大変重要です(詳細は後日)。大学によれば、大学院入学試験受験の段階で先生を選ぶことのできる場合があり、社会人の方だと社会人出身教員だと自分と同じ境遇なので理解してくれるのではないかと考えられるのも無理からぬところです。しかしながら、現実的には社会人院生に対する理解は、社会人経験の有無とは直結しないというのが実感です。むしろ、先生の人柄・視野の広さ・人とのかかわり方といった根本的なところが影響しているように思えてなりません。社会人院生をあまり好意的に思っていない教員が存在している可能性があることは、理解しておいても良いことかもしれません。
社会人院生に期待されているところ
やはり社会に出て社会の厳しさを具体的に経験し、それでもなお勉学意欲に燃えて大学院に入学してくる社会人諸氏は概ねパワフルな方が多いように思えます。そして、学部卒業後そのまま大学院に進学したこれまでの院生とは異なり、視野の広さ・実務をふまえた理論構成・これまでにない考え方の提示等、既存の大学院に新風を吹き込むことが期待されています。卑近な例だと、当たり前のことではあるのですが、時間厳守を徹底しているのは社会人院生であるということは感じます。かくして、往々にして同質化しやすい大学院という狭い世界において良い意味で異質な存在として活性化することが期待されています。それだけに、単に社会人をしていました、というだけではなかなか入学を許可されない場合もあると思いますし、個々の大学院の研究科毎でも社会人院生に対する考え方はかなり温度差があるようにも思えます。大学院事務室への問い合わせの段階で、これまで社会人院生を多く受け入れてきた大学院なのか否かはすぐに分かると思います。
まとめ
社会人が大学院に入学することは、大学にもよりますが概ね歓迎されている傾向にあります。今回は社会人が大学院に入学するまでを示しました。後日、入学後、社会人生が研究者(大学教員)になるにはどうすればいいのか、示すことにします。
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