大学・学部の選択

大学・学部選択の重要性

本ブログでは、開設より研究者志望(大学教員志望)の方々を中心に、主に学生さん(学部生)を中心に、得にくい情報を中心に発信してきました。よく考えてみれば、大学生になった段階でどこかの学部に所属しており、研究者になるにしても一定の制約が既に存在します。そこで、大学生になる直前の高校生や浪人生といった大学受験生の皆様であれば、そのような制約はないので、基本的には自由に進学したい大学や学部を選択できます。もっとも、個々の状況はそれぞれで、選択肢がすでにそれ程ない方もおられことでしょうが、そういう方々にも読んで全く無駄にはならない内容にしています。

今回は、大学教員からみた大学選び、学部選びという内容について情報発信します。

大学選択

日本には国公私立大学がどれくらい存在するのでしょうか。文部科学省「令和2年度 学校基本調査」によれば795の大学が存在するとされています。その7割以上が私立大学で、国立・公立大学は数からすればごく僅かです。国の将来を左右しかねない高等教育たる大学教育の大半を担っているのは、国立大学ではなく私立大学であることは厳然たる事実であり、これは戦前・戦後を通して変わりません。

とはいえ、肌感覚から言えば、歴史的にみれば東京都と京都府に存在する大規模国立大学が大学教育を支えているということは、ほぼ異論のないところでしょう。そして、大学選択を考える際、大学の歴史について考えることが重要です。そもそも、現存しかつ戦前から存在する大学としては、戦前に帝国大学と称していた、旧制帝国大(旧帝大)が上記の2つを含め7つ存在し、その他、戦前には、旧制文理科大学(2つ)、経済系の旧国立大学(2つ)、旧工業大学(1つ)、旧官立医科大学(6つ)、旧公立大学(1つ)と(関東・関西を中心に)伝統ある大手私立大学を挙げることができます。

もし、大学選びに迷いが生じているのであれば、まずは上記の大学から大学選びをされることをお勧めします。国も戦前に大学であったのか否かという点は重視しており、例えば、大学院博士後期課程の設置認可を行う際には、戦前から大学として存在していた学部の上に設置するのは比較的すんなりきますが、そうでなければかなりの苦労があったとされます。また、卒業後どのような分野に進むのか分からない場合であっても、戦前から大学として認可されており、現在も学生募集を継続している大学は、何だかんだ言って校友(OB、OG数)も多いですし、各界に張り巡らされた人脈も無視できないものがあります。もちろん、これらの大学はそれなりの知名度もあります。とりわけ注意すべきなのは、やたらに難易度だけは高いものの戦後に設立された大学でしょう。それなりの理由があって進学されるのならいいですが、まずは上記の大学から選ばれると、進学後失望するといった可能性(リスク)を低減化することができようかとも思います。

現在の大学を取り巻く状況

決して良いことではないのですが、我が国には官尊民卑の思想が各界各方面に根強く残っており、それは、大学においても同様です。もっとも、ご存じのように小泉構造改革により2004年から国立大学が国立大学法人化され、年々国から各大学への補助金が減らされているので、国立大学の財務状況が厳しくなりました。そして、厳しい財務状況に伴う昇任の厳格化(なかなか教授になれない)と研究費の削減(いまや競争的研究資金を外部から獲得できなければ、研究することは困難である分野も少なくないです)、更には教授会自治の実質的否定・学長公選制否定、ひいては労働環境の劣悪化(担当コマ数の増加)が顕在化するに至っています。しかも、年中改革することを求められ、改革のための準備に狂奔していることも教員を疲弊させています。もはや、講義コマが1コマだけであとは数人に対する卒論指導だけ、大学院指導はなし、という昭和の牧歌的な時代のように時間的に余裕があり学生と向き合いじっくり指導する、腰を落ち着けて中長期的視点で研究をするということは許されない状況です。かつて、国立大学教員は私立大学教員よりはるかに恵まれている時代がありましたが、国立大学が教員の給与面でも環境面でも大手私立大学よりはるかに優れているとはお世辞にも言えないのが現状です(東京都と京都府にある著名国立大学はさすがに今も何とかかつての国立大学の姿を維持できているようですが、その他の旧帝大の実情は厳しいように仄聞しています)。そうなると、地方国立大学から首都圏もしくは関西圏にある大手私立大学への異動を希望するのがもはや当たり前の状況で、(需要のある)優秀な教員からどんどんと人材の都市部(主に首都圏と関西圏)への流出が進んでいます。

これを受験生の側から見ると、こういう問題として顕在化します。2つの著名国立大学以外の旧帝大と都内大手私大の両方に合格した場合、どちらに進学すべきなのか、です。とても難しい問題です。結局は、卒業後どのような方面で活躍したいのか、という点に帰着します。卒業後の進路によれば、都市部の大手私大が有利な場合もあれば、地方旧帝大が有利な場合もあります。こうなると、大学選びも重要ではあるものの、同様に学部選びも重要であることになります。

学部選択

基本的には大学選択と同じ視点で行うべきでしょう。戦前から存在していた学部なのか否かという点です。注意すべきなのは、戦前から大学は存在しているのだけれども、戦後に設立された学部に進学する際は注意が必要です。これは、将来、研究者志望を選択肢として考慮に入れられている方に対してですが、研究者は人のつながりを大変重視します。「あなたは誰の弟子なのか、あなたの指導教授は誰なのか」「その指導教授の指導教授は誰なのか」といった形で学問的出自が問われることは意外に多いのですが、その場合に戦前から連綿と続く伝統ある学派(Schule)の一員として認知されることは想像以上の利益があります。また、研究者志望ではない方はそれ程重視しなくても良いのかという点ですが、気にされた方がよいでしょう。戦前から存在する大学であれば伝統ある学部が存在します。それとの対比からすると、歴史の浅い学部というのはどうしても学内的に発言力が弱く、新しいことがやりにくいとか積極的に何かをしようとした時に前例がないことも間々あること、どうしても伝統ある学部及びそこの教員・学生を優先する傾向がありますので教員のみならず学生が不利益を受ける可能性が全くないとは言い切れないのです。

更に、学部選びで留意すべき点は、最近設立された新しい学部を選択する際には自分なりに十分すぎるほど考えた上で進学されるとよいでしょう。伝統的に存在する法学部、経済学部、経営学部といった学部以外、多くは学部名が長めのことが多いですが、こんなことなら伝統的な学部に進学した方がましだったという声を少ないですが耳にします。とりわけ、薄く広く何でも学べるというのは、一見お得そうですが、専門性が弱くなりやすいですし、いったい自分は何を勉強しているのか分からなくなる可能性があり、大学院進学を考える際に自分の大学以外は選択肢として考えにくいというマイナス面があります。

学部選択ー最終手段

学部選択に失敗してしまった、どうしてもこの学部にいることができないと考えるに至った際、どうすべきでしょうか。食わず嫌いなのだからもっと勉強しなさいとか、勉学以外に関心をもて等というのは無責任過ぎる助言ですので、私は、以下の方法を学生に伝えたことがあります。

一つは、学内編入という方法です。大手の大学だと、一定の条件をクリアすれば同じ大学のA学部からB学部に変わることを制度的に認めている場合があります。次は、他大学への編入という方法です。具体的には、他大学の3年次に編入すべく2年次あたりに実施される編入試験を受験し、合格すれば今の大学を退学し、はれて新しい大学の3年生になることが可能です。よりステップアップする形で移ることが多いようです。編入に関しては、同じ学部から同じ学部への編入は認めていない場合があること、編入試験は院試以上に情報が限られていて情報を掴みにくいこと、院試のように論述と外国語試験を課されることが多いので学部2年生にとっては決して安易な道ではないことも事実です。他方、大学によれば一定数の編入者を毎年受け入れることで学内を活性化させることができるとの考えの下、積極的に実施しているところも存在します。最後は、大学入試をもう一度受けなおすという方法です。

結論

大学選択・学部選択いずれも、戦前から存在する大学・学部であることが理想です。迷えばこれを基本にしましょう。それから、各分野ごとに偏差値には表れてこないけれども、大変大きな存在感を有する大学・学部が存在します。例えば、国文学、法律学、教育学においては、それぞれ戦前から存在する大学・学部があり、現在においても、大きな影響力を有しています。他の分野にもこのような例は見られることでしょう。このような影響力は一朝一夕に出来上がるものではなく、長年にわたる蓄積が不可欠です。かくして、目先の偏差値だけにとらわれるのでなく、大学の歴史にも是非目を向けた上で大学受験生及びその関係者の皆様が大学選択をして頂ければ幸いです。 

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