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研究者志望者における院進
本日は、本ブログの中核の一つである研究者志望者(大学院進学希望者)にとっての情報提供を致します。特に、語学力については研究者志望者にとって大変重要なので、私の経験を基礎としつつ、なるべく一般的な内容になるように留意致しました。いきなり語学について書くのではなく、大学院進学についての一般論をふまえてから語学について展開しています。語学に興味のある方は、読まれて全く無駄な内容にはならないと思います。
そもそも研究者志望者は、若干の例外を除けば、学部を卒業後、大学院に進学し、修士・博士の学位を取得すると共に論文執筆に励み教員公募もしくは私募により、大学教員のポストを得るというのが一般的だと思われます。その中で、最初の関門になるのが大学院進学の際の大学院入学試験(院試、と略されることもあります)です。院試は大学入試と比較すればその情報量の少なさに愕然とすることでしょう(だからこそ本ブログを開設したという面もあります)。また、院試対策の専門学校・予備校が近年あるやに仄聞していますが、大学入試で経験したような徹底した過去問分析・情報収集、分析・情報収集に基づいたテキストの作成・提供、講師陣による万人に分かりやすい講義の提供、を期待しているのであるならば、その期待が現実化する可能性はそれ程高くはないと思っていた方が良いかもしれません(もちろん、それらの専門学校・予備校は意義のあることをされていて、それらの利用を否定するものではありません)。要するに、自らが主体的になって情報収集し勉学する中で必要と思われる限りにおいて上記の専門学校・予備校を利活用するべきと考えます。このことは、院試のみならず民間企業や官庁における就活においても広く妥当することのように感じます。ともかくも、大学生になったからには勉強するのは当たり前で、それをふまえて自らが主体的・積極的に動かないと自らが希望する成果をあげることは難しいことに気付いてほしいのです。
私の経験からすれば、やはり院試を考えているのならば一番に話を聞くべき人は、自分の希望する大学院に通っている方です。可能な限り直近の院試を合格した方が望ましでしょう。自らが院試を経験していますので、多くのことを教えて頂くことが可能になるでしょう。直接の知り合いにそういう方がいなくとも、様々なチャンネルを利用してでも接触を図るべき方です(そういう際は前述の専門学校・予備校が有益かもしれません)。同様に、ゼミの先生をはじめとする自分の進路について相談できる関係性にある大学教員に院進学について話をすることも重要です。一般に、大学教員の有する情報量は莫大で、将来についても正確なところを把握しています。ただ、教員毎に対応が異なるのは皆様もご存じの通りで、可能な限り広く情報を開示するタイプ~公表済の情報しか開示しないタイプまでいます。注意すべきなのは、研究者志望の大学院進学そのものを好意的に考えていない大学教員や当該の大学教員における自らの評価があまり高くない場合は院進学について否定的な反応を示されたり、他大学の大学院を受験しなさい等と無責任なことを放言する教員がかつては存在しました。現状、大学教員はハラスメントには大変敏感で学生を傷つけるような発言をする教員は以前からすれば激減している感がありますが、自らが指導しなければならない研究者志望の学生に対しては厳しい態度をとる教員が現在も全くいないとは断言致しかねるところです。
現在の院生や先生に話を聞けば、社会科学系の研究科を志望するのであれば、語学が非常に重要であるとの助言をされることが多いでしょう。ではなぜ語学が重要なのか見ていきましょう。
院試における語学
一般的に社会科学系の院試では専門科目と語学に関する試験が課されることが多いですが、私の経験並びに先輩・同期・後輩が経験した限りにおいて、院試において専門科目の出来が悪いようでは話にならないというのはほぼ一致した点です。また、語学対策は重要ではあるものの大変だった、難しかったと述懐する方が少なくありません。では、院試における語学対策が重要でかつ難しいのはなぜでしょうか。難しさの理由をごく簡単に申し上げると大学受験までに要求された語学力と根本的に異なるものを要求されているから、と考えられます。
そして語学の重要性は以下から明らかです。そもそも文系では前述したように専門科目で不合格になる可能性は低く、語学が原因で不合格になる可能性の方がはるかに高いこと、更には、いくら専門科目が抜群の出来であっても、語学で一定の点数(しかもそれがハイレベル)を獲得しない限り、その一事をもって不合格が確定する、というのはどの大学においても見られる一般的な運用です。かくして、院試に合格するには語学力が決め手であると断言する教員もいます。一時、外大生で社会科学の分野を学んだ方が院進学に有利だと喧伝された時期もありました、上記からすれば理由なきことではありません。
そして、語学をこれだけ重視するのは、研究者志望に対する大学院教育において重要だからともいえます(その他、歴史的な側面もありますが長くなるので割愛します)。研究者志望の大学院生にとって、大学院入学早々から辞書を用いていわゆる原書(自分の専門分野に関する書籍、論文等)の訳読が当然のように求められることも間々あります。そこまで求められなくとも、最低限、修士論文の中で原書が読める、海外の学者が示す理論を考察することが不可欠の場合は多いでしょう。
専門語学力と一般語学力の違い
具体的に過去問を概観して、1文が何行も続いている、難しい単語(見たこともないような単語)がある、ざっと訳出しようとしても日本語にならない、そして、辞書使用を許可されていても状況はさほど変わらない、というのはよくある現象の一つです。
過去問で求められているのは、一般的には自分の専門分野における研究者の専門書・論文等を十分に理解・咀嚼して自分なりの言葉で表現することです。そのためには、大学受験の際に求められた一般的な意味での語学力(=一般語学力)が必須となります。長い文章を訳読する際に、文章の構造分析が瞬時にできないようでは、一般語学力が不足していることになりましょう。しかしながら、一般語学力が抜群であっても、専門書を訳読するには専門分野に関する知見と専門書訳読のための一定の訓練を経ていないと、正確な訳読は不可能です。例えば、偉大な医学者である野口英世博士の初期の研究業績に医学専門書の翻訳を指摘することができます。このように、医学専門書を正確に日本語に翻訳するには、専門分野に関する知見をふまえた語学力(=専門語学力)が必要であることをご理解頂けるかと思われます。抜群の一般語学力を有する文学者には医学専門書を翻訳することを求めるのは不可能を求めることです。かくして、専門分野の専門書を訳読するには、一般語学力とともに専門語学力が必要なのです。
専門語学力養成のために
概ね大学3年次~4年次に開講されているであろう、外書講読(もしくは外国書講読)という科目で行うことが、院試の語学で求められる能力でしょう。外書講読では、それぞれの学部の先生方がそれぞれの専門分野の外書(多くは英書、英語で書かれた専門分野に関する書籍・論文等)を順番に訳出していくことが多いでしょう。その際、非常にゆっくりと進むこともあります。また、確定訳を保留したり、後日に訳を訂正する教員もあるでしょう。それくらい、外国書の訳読は慎重であるべきことを示しています。
このように外書講読を履修することは必要ですが、それだけでは不十分です。自分なりに勉強する必要があります。具体的には、院進学を相談した先生もしくは外書講読の先生にお聞きして、定評のある外国書を紹介してもらうとよいでしょう。その際、日本語訳が出版されている、どこかに日本語訳が掲載されている外国書を、院試で要求されている条件で(辞書参照許可なら辞書を参照しつつ)自分なりに読んでいくことが必要です。日本語訳がある外国書を一定のペースで毎日訳出(逐語訳)することを継続し、段落ごとくらいに訳出して自分の日本語訳は正確なのかどうかチェックするとよいでしょう。その際、専門用語は書き出すなり、カード化することが必要です。また、専門用語は、通常の辞書では掲載されていない、もしくは誤りではないが適切ではない訳語が掲載されていることも有り得ます。そのため、自分の専門分野に関する専門用語辞典らしきものが出版されていたら、ご自身の経済状況を勘案した上で購入されることを検討してもよいでしょう(このような辞典は購入者層が限られるため、売り切れになりやすいという側面があるからです)。
まとめ
本日は、研究者志望者にとっての大学院進学を考える際に、具体的にどのようなことをすべきか、一般論をふまえつつ語学を中心に書きました。本ブログに書かれている内容はあくまで参考で、これより優れた勉強手法はあるでしょう。自分に適合した勉強手法に基づき勉学を積み重ねることが大切と考えます。また、以前にも申しましたが、語学力養成にあたっては一般語学力・専門語学力ともに時間がかかります。そして、毎日少しでもいいので継続することで実力が徐々に向上していきます。皆様にとって、この文章が一部でもお役に立つようでしたら幸甚です。
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